写真展   「 旅のたまゆら  1981-1988 」      クリスタル

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    展示作品より      宗谷本線  1988年










風太郎が過ごした1980年代初頭の大学事情というと、いわゆる学園紛争の世界は遠い歴史として風化し、

ごく一部の生き残りがセクトとして構内にアジ看板を建てたりしていたが、それらはもはや空虚な風景でしかなかった。

高度成長は終わってもそれが作り上げた富の基盤はようやく庶民全般にも浸透し、一億総中流と言われる中で、

アジ看板が叫ぶ階級闘争が虚ろなものに響くのも当然の帰結だったろう。


ノンポリこそが格好良かった時代である。政治はもちろん、何かに熱くなる事は格好悪かった。



私と同じ英文科で、同じテニス同好会に入っている早苗は、洗足にコーポラスを借りて一人で住んでいる。
   
いつも、バークレーかシップスのトレーナーに、クレージュのお弁当箱みたいなバッグを持って、ミハマのペ
   
チャンコぐつに丸いボンボンの付いたハイソックスをはいている。 
   
     
   田中康夫  「なんとなく、クリスタル」 より
   


田中康夫が1980年に発表した小説 「なんとなく、クリスタル」は、無意味な程に記号化されたファッションブランドの羅列と、

それらが担保してくれる、「なんとなく心地良い気分」に浮遊する若者たちを描いた。

軽薄浮兆・内容乏しい大駄作の酷評もあれば、これぞ時代の空気の体現という絶賛もあり、結果的にはベストセラーとなる。

それはある種の社会現象化し、小説の主人公達とドンピシャに被っていた風太郎の世代は、「クリスタル世代」と呼ばれた。

相応にカネを持った親のスネを齧るか、安定成長下で求人に事欠かないアルバイトに精でも出せば、それら「ブランド」は手の届くところにあったし、

多分歴史上最高にレジャーランド化していた大学 (今の大学生は結構真面目だと思うぞ) は、小説から飛び出したようなファッションに溢れた。


冬が来ればゴム長靴を履いて雪国に向い、なけなしのバイト代は1枚の周遊券と3日に一度位泊まる商人宿代に消えていた当時の風太郎が、

その中で浮き上がりまくっていたのは言うまでもないが、もともと風向きに合わせるのが苦手なタチだからそれは大した苦痛でも無く、

我が道を気ままに追っていたように思う。




冬の旅。

北辺を行く各駅停車の乗客は今では想像出来ない程多く、駅に着くごとに人々は三々五々地吹雪の中に消えてゆく。

酷寒におろおろ歩き、積もっていく睡眠不足や疲労に朦朧としながらの車中も時間だけはふんだんにあったから、

窓辺の先にあるその土地に根を下ろした暮らしのかたちやら、幸せの在りかなんぞをぼんやり想った。

それは都会では曖昧にかたちを成さなかった、今日を生きることの手触りのようなものを、無意識のうちに旅の空に探していたような気がする。




件の「なんとなく、クリスタル」、当時は斜めに読み飛ばしたので全く気付かなかったが、

そのエンディングは、出生率の低下に伴う人口減少時代の到来、圧倒的な高齢化社会を予言する、

ごく地味な統計資料で閉じられていた事を最近知った。






写真展  「  旅のたまゆら  1981-1988  」    モノクロ 77点 

◯ 開催期間  2016年8月16日(火)~8月29日(月)  (21・22日は休館日)

◯ 開場時間   10時30分~18時30分  (最終日 15時まで)

◯ 場所     新宿ニコンサロン   新宿区西新宿1-6-1  新宿エルタワー28階   (新宿駅西口より徒歩5分)  



明日(8/20)は終日在廊します。  





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「風太郎の1980年田舎列車の旅」

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[ 2016/08/19 20:46 ] 写真展 | TB(0) | CM(4)

風太郎様

手前 新聞を読む男性
前の座席に足を伸ばし 3人分の座席を一人で占領しています
その方の姿も目立ちますが・・・・それ以上に極めて印象的なのはその男性に遠慮するかのごとく身体を小さくするがごとく窓を見ている青年です
くもった窓は車外の寒さを語っているかのようです
青年には窓からの景色はよくは見えなかったのではないでしょうか・・・
横顔が心に残ります
[ 2016/08/19 21:22 ] [ 編集 ]

見詰めるもの


りらさま

3人分の座席を一人で占領するのはかなりお行儀が悪いようですが、
ローカル線の地元乗客の生態としてごく一般的なものでした。
特に取り留めのない広さを持つ北海道のローカル線となれば乗車距離が長くなっているのでしょうか、
そのダレ具合からも窺い知れます。

これは想像でしかありませんが、青年は大人の倦怠にはまだ縁遠いようです。
見詰めているのは窓の外ばかりではないのかと思います。
[ 2016/08/19 23:38 ] [ 編集 ]

ボックスシートではこんな姿勢で真っ直ぐ足を伸ばすのがいいのか
それとも頭をもっと低くして膝を折り曲げるほうがいいのか
夜行列車の過ごし方に
1泊1500円の宿や駅近くの銭湯
周遊券の有効期限いっぱいに北海道を彷徨った頃を思い出しました。

なんとなくクリスタル…
私が持っている1981年6月の73版の末尾に
出生力動向、老年人口比率、厚生年金の保険料が載っていたことを初めて気付きました〜
[ 2016/08/21 21:40 ] [ 編集 ]

切なく忘れ難く


ねこさま

夜行列車で寝る事を最優先に考えるなら基本的に1ボックスを占領し、くの字型になって寝るのが王道でありましょう。
しかし混んだ列車になればそうもいきませんから地獄の一夜も覚悟しなければならず・・。若さがあっての事ですね。お互いに。
そんな切なくも忘れ難い旅の思い出は、現役蒸気に間に合わなかった世代でも多くが共有しているようですね。
今回の写真展でお会いした方々から熱く伝わるものがありました。

「なんとなく、クリスタル」、読み返せば主人公の満たされた同棲生活の破局を暗示したラストになっていますね。
クリスタルガラスはキラキラしているけど壊れやすいもの、心の隅に忍び込む翳への怖れもまた、
この煌びやかな小説のテーマだったのかも知れません。
[ 2016/08/21 22:54 ] [ 編集 ]

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