北海道おといねっぷ美術工芸高校のこと その2

前回 http://futaro1980.blog.fc2.com/blog-date-20111218.html  の続き。



2010年5月に出版された一冊の本がある。タイトルは「奇跡の学校 おといねっぷの森から」。この高校に2006年

から3年間在任された石塚耕一校長の体験に基づくノンフィクションだ。かつて生徒だった9人の高校生の、時にま

ぶしく、時に胸打たれる9つの物語が収められている。


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石塚耕一著  「奇跡の学校 おといねっぷの森から」 光村図書刊


本に登場する生徒もそうなのだが、この学校に来るのは正直なところ「訳あり」が多い。現代の「訳あり」だか

ら、不登校、いじめ、引きこもりの類。ただ、この学校の生徒が世の中に山ほどいるはずの「訳あり」と違うの

は、そういった自分をなんとか変えたい、という意思を持ってこの寒村に一人でやって来たことだ。そして本書は

彼らの「再生」の物語でもある。

皆、最終的には自分の力で立ち上がったのかも知れないが、24時間を共にするような生活のなかで、彼らを支え、

励ます教員やクラスメートの姿、学校トップとして様々な軋轢と戦いつつ、それを温かく見守る校長先生が本書の

中には生き生きと描かれている。けっしてマスプロではない、小さな「村立高校」だから出来ることに違いない、

と思う。


「奇跡の学校」というタイトルは、生徒と石塚校長の会話の一節から来ており、当の石塚校長は仰々しくて、とご

不満なようだが、小学校5年から不登校が始まり、中学校には1日も通わず引きこもっていた少女がこの高校に入学

し、3年の寮生活(狭い部屋に3人だ!)を過ごした後、国立大学に現役合格してしまうという話を、教育の奇跡と言

わずに何と言わんや。また本書のもうひとつの凄さは、登場する生徒、教員全てが「実名」ということだ。出版に

あたり北海道教育委員会もビビりまくったらしいが、著者である石塚校長と登場人物との固い信頼関係がそんなと

ころからも伺える。


そしてこの学校、そんな「訳あり」対応もさることながら、芸術教育の水準が凄いのだ。絵画系の「美術コース」

と造形系の「工芸コース」に分かれるのだが、いずれにしても教員が毎晩遅くまで制作に付き合う。教員も「村

民」として学校の隣に住んでいるから出来ることだが、私生活も犠牲にするようなその熱意には驚く。北海道内の

学生美術展の入選作をほとんど独占状態なのも当然の結果だと思う。


美術科教員のご出身である石塚校長が日頃からお嘆きなのだが、昨今の芸術教育の軽視は目に余り、才能の芽が摘

み取られ、人材の育成が疎かになっている。絵画や彫刻のようなピュアアートはともかく、インダストリアルやグ

ラフィック、インテリアといった、もっと私たちの身近なところで美的センスのあるデザイン力が求められてい

る。単なる工業生産の効率の世界では新興国の追い上げに抗しきれないなか、モノに新たな価値を吹き込む「デザ

インの力」は、アニメやゲームと同様に日本のコンテンツとして世界に問うだけの価値を持つのではないか。

コンテンツを支えるべき人材の育成はもっと大切にされてもいいのではないか。「おといねっぷ」のチャレンジ

は、そんな風潮に一石を投じる意義がある、と先生は強調する。


この凄い村立高校、「訳あり対応」の実績だけでも全国的に知られたら大騒ぎになると思うが、そこが公立高校の

奥床しさでほとんど表に出していない。プライバシー云々の問題はあるものの、これが私立だったら策を重ねて喧

伝していると思う。そういう意味でも「奇跡の学校」の出版によって、そういった実績がやっと日の目を見たとい

うことだ。昨今、入学希望者が増えて学校運営は安泰とはいえ、北海道の僻地であるというハンデはこれからも変

わらず、小さな村の学校を今後も維持していくためには、様々なメディアによってこれを全国にアピールすること

は不可欠の要件だと思う。この「片田舎の奇跡」を知らしめ、音威子府の再生に結びつけるための「メディアと村

立高校」については、また後日。


石塚校長は2009年に惜しまれつつ他校へ転出されたので、風太郎とは1年程度の接点しか無かったのだが、教育者

としての素晴らしさはもちろん、絵画・造形に留まらず、写真・映像・音楽制作までなんでもござれで手がけてし

まうスーパーアーティストなのだ。風太郎とは写真がご縁で意気投合し今も懇意にさせていただいている。


「音威子府と学校の東京宣伝部になりまっすよー」という約束を酔った勢いだけにしないためにも、何かやらにゃ

あという今日この頃だ。




冬の音威子府


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  霧氷

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  けあらし




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[ 2012/01/05 21:09 ] 音威子府 | TB(0) | CM(2)

記憶が・・・

風太郎さま

2度目の記事を読んでいて、だんだん確信したのが
この学校ののドキュメント番組を見た覚えがあります。確かNHKだったかな?
かくいう私も、一度に限らず芸術の道を志しかけた
一人として、凄い学校があるものだと感心したのでした。
しかし、冬の北海道は良いです。私も流氷の頃に
一度観光でお邪魔しました。
[ 2012/01/05 21:19 ] [ 編集 ]

ドキュメンタリー

狂電関人さま

ドキュメント番組というのは3年位前にやったNHKの「新日本紀行ふたたび 音威子府村」じゃないでしょうか。

あれは学校側の働き掛けでシナリオを書き換え、「新日本紀行」どころか、すっかり学校のプロモーションビデ

オ化したいわくつきの番組です。

何にしても過疎の村が頑張りが全国的にも注目されつつあるのは痛快です。
[ 2012/01/05 21:58 ] [ 編集 ]

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