大木茂写真集 「汽罐車 よみがえる鉄路の記憶 1963 - 72」 

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  新宿書房刊 



「駆逐されたのはなにも蒸気機関車だけではなかった。愚直ではあるが真面目に生きてきた人々も、生活も、進歩

効率化の名の下に箒で掃き捨てるように片隅に追いやられてしまった。僕にとっての蒸気機関車とは、使い捨て物

質文明に潰されてしまった人々の優しい心根へのオマージュではないかと、今考えている。」


巻末の解説「カメラと寝袋と機関車と」に記された一文がこの写真集の本質を語っていると思う。


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ページをめくると、日本中が「SLブーム」という狂騒曲に巻き込まれる前の、SLが真にその土地に生きる人た

ちのために走っていた時代の姿が写っている。映像表現としても秀逸で、美意識の高さと同時にSLと心を込めて

対峙する姿勢が無ければ撮れない写真だと思う。そして目立つのは駅に集う人々の多さだ。駅員は小さな駅でも大

勢居るし、列車と共にある乗客の生活の活力が画面から伝わってくる。宗谷本線の「雄信内」など、人の気配を感

じない現状と写真の中の世界が、数十年の時を経ているとはいえ同じ空間とは信じられない思いだ。


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著者も「本当は旅がしたかっただけなのかも」と語るように、これは一青年の「旅の記録」でもある。風太郎も似

たような事をしていたから共感出来るのだが、大した金も持たずに一人旅に出るという事は、自立心と共に旅先で

の周囲の目に見えぬ支えがあって初めて成立するものだ。規則を曲げて待合室に泊めてくれる駅員に人の情けを学

ぶのは、決して学校では出来ない事だろう。「旅は僕の学校だった」という一文には著者のそんな想いが溢れてい

るようだ。


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巻末の解説を読めば、この写真集の原点は「北辺の蒸気機関車たち」にあり、それはSLブームの中、「カネになる」

事に気が付いたプロ達による「SLの商業化」へのアンチテーゼから生まれた事を知る。「北辺の・・」が今も輝

きを失わないのは、一介の学生だった作者達があくまでアマチュアとして純粋に旅をして、SLとそれを取り巻く

人々を想う心を精一杯一枚の写真に込めているからだと思う。そして「北辺の・・」を現代に蘇らせ、共著ゆえ語

りきれなかった想いを注いで昇華させたのがこの「汽罐車」ではないだろうか。


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収められている写真は1963年から1972年までのもの。狂騒の渦中にあったSL最後の3年間がまるで無いのは著

者の強い拘りと思う。そしてこの時代はまさに日本の高度成長期にピタリと重なる。冒頭の言葉にもある通り、

この9年間に日本の社会は大きく変わり、取り残される人、それに迎合せざるを得ない人を大量に生み出した。

この写真集ではSLと共に、「その時代」が活写されていると思う。


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写真集を見終えてふと思ったのは、今現在が実は「SLブーム」の渦中にあるのでは、ということだ。

裾野が広がり「鉄道マニア」が社会に認知されるのは悪くないが、ただ大勢で群れて同じ事をするのが目的化し、

商業主義に染まった粗製濫造の「テツ本」がそれを煽る。結果的に様々な軋轢を生み、過度な自制心ばかりが求

められる。そして既存の価値観の大きな変革を求められる社会状況。何かの符合を感じずにはいられない。


キミ達は本当に自分の目と心で鉄道を見て、それを取り巻く全てを愛しているか、と我々に問うものが本書かも知れない。


お値段3990円は採算度外視価格だそうな。1000%頷けるから、まだ持っていない人、写真展を見逃した人は書店に

走るべし。



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「風太郎の1980年田舎列車の旅」




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[ 2012/08/12 20:44 ] 日々雑感 | TB(0) | CM(4)

僕はSLには間に合わなかったのですが、まだ善き国鉄が色濃く残っていた時代に同様の鉄旅(今風に言えば撮り鉄?)をできた世代です。風太郎さんとは同級生でしたよね!?

とても共感できる写真集のようです。早速本屋へ行ってみます!!
[ 2012/08/13 10:53 ] [ 編集 ]

宴の後

mack さま

こんばんは。

私も間に合いませんでしたよ。完全に。

でも良かったと思うのです。

ブームの狂騒の後、本当に旅や鉄道好きな人間だけが、静かに日本の山河と鉄道を味わえました。

列車が煙を吐かないだけで、それを取り巻く全てが、ほぼそのままで残っていたんじゃないでしょうか。

宴の後、国鉄解体までの10年間は、奇跡のような時間だったと思っています。
[ 2012/08/13 20:04 ] [ 編集 ]

うーん・・・

SLブームは実際には70年ころから始まっていました。悪乗り状態になったのが73-75年だったかなぁ。
でも、布原・常紋・原生花園などブームになった場所もあれば、山陰や三江北線なんかは静かなものでした。
そういう場所では昔ながらの旅が満喫できたと思います。
[ 2012/08/13 22:16 ] [ 編集 ]

SLブーム

マイオさま

こんばんは。

そうですか・・。どこが始まりかはいろいろな見方があるんでしょうね。

なにしろ私は一度も「参加」していないので誰かが語る事を鵜呑みにするばかりです。

当時でもお祭り的に盛り上がる場所もあれば、知る人ぞ知るスポットもひっそり存在していたのかと思います。

私なら後者ですかねえ。

ありがとうございました。
[ 2012/08/13 22:53 ] [ 編集 ]

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